外資系で働く編:2004年03月21日(日)柴田励司(マーサーコンサルティング社長)VS 小松俊明 対談
プロ社員を育てて、組織力をアップせよ
>>柴田さんは人事コンサルタントとして、変革を求める多くの企業にアドバイザーをされていますね。最近は、
どのようなケースの相談を多く受けますか。
そうですね。社員のモチベーションをアップさせる方法はないか、そのような問い合わせを受けることが増えているように思います。
個人と会社の論理にギャップがあるがゆえに、モチベーションダウンした社員が増えていくと、急速に組織力が弱体化してしまいますから、
この問題は深刻です。いわば業績が悪化してリストラを断行している会社などは、まさにこうした負のサイクルに陥っているようです。
>>負のサイクルを断ち切って流れを変えることは、なかなか難しい挑戦だと思いますが、
どのような具体的なソリューションを柴田さんは提案していらっしゃいますか。
私は社員のプロ意識を高めることが、負のサイクルを止めるきっかけになると考えています。そのひとつの方法として、
2つのFAを提案しています。一つ目はフリー・アドレス(Free Address)。二つ目はフリー・エージェント(Free
Agent)という試みです。フリー・アドレスとは、社員はどこで仕事をしてもいいというコンセプトです。つまり、
社員は必ずしも会社に来なくてもいいという考え方です。あるドイツの会社では、数年前から社長を含めた全社員の座席をなくした例があります。
職種、タイトルなどに関係なく、社員は空いている席に自由に座り、必要に応じて移動をしながら仕事をします。この場合、
オフィスには全社員分のデスクはないという状況になっています。自宅に勤務し、たまに出社する社員も増えているからです。
>>社員がばらばらに仕事をするようになれば、かえって組織としての求心力を失うという恐れはなかったのでしょうか。
私たちがこの制度を導入しようと企業に提案したとき、確かにそのような反対意見がありました。
それまでも部署間のコミュニケーションに問題があることが指摘されていましたから、
それが決定的に悪化するのではないかという心配の声も無理はありません。しかし私には、ある確信がありました。
コミュニケーションは必ず以前より良くなると信じていたのです。実際、フリー・アドレスが採用されてから、
社員間のコミュニケーションは改善されていきました。というのも、しっかりと情報を伝達し、相手にきっちりとフォローアップをしないと、
物事が前に進まないと言うことに、社員一人一人が気がつき始めたからです。その代わり無駄なミーティングやレポートが激減していきました。
それどころか、ミーティングの出席率がよくなったのです。つまり、みな主体的に行動するようになったのです。これは、
社員のプロフェショナル意識を高めていくよいきっかけになったと私は思います。
>>もうひとつのFA、フリー・エージェントとはどのようなコンセプトですか。
自分のやりたい仕事に社員が応募する制度です。これは社員が自らのエンプロイアビリティを確認するよい機会にもなり、
社員のプロ意識を高めるきっかけとなることがあります。外資系企業ならば、採用しやすい制度のひとつです。一方、
失敗しやすい制度としても知られている制度です。
>>うまくいかない原因は何ですか。
そうですね。現場の長が、P/Lに責任を持っている場合など特にそうですが、個人のニーズや論理を受け入れず、
目先の会社の事情を優先して本人の異動の希望を握りつぶすなど、本来の制度の趣旨を曲げてしまうことがあるからです。よって、
この制度を定着させるために人事部としては、時間とコストをかけて現場を巻き込んでいくフォローアップが必要となるでしょう。
>>時間とコストをかけてということですが、具体的にどのようなフォローアップを現場に対してやっていかなければいけないのでしょうか。
現場の長を集めて、フリー・エージェント制度の趣旨を理解してもらう機会をしっかりと作ることが大切です。日常の業務の邪魔が入らない場所、
つまりオフサイトの環境で、外部のファシリテーターの協力を得るのがよいでしょう。
>>さてプロ社員を育てることが組織力のアップにつながるということですが、フリー・エージェントという発想であれば、
社員との契約条件にもいろいろな工夫が生まれてきているようですね。
面白い事例があります。私が担当した企業では、社長以下すべての社員の基本給を同じ金額にしました。
タイトルなどによって役割給で差をつけることはありますが、基本給を同じにすることで、より社員との契約意識を高めることに成功しています。
また業績給も同時に採用しています。これにより手をあげて仕事をやりたいという社員の発掘とそれにこたえる報酬を与えることが可能になり、
自己裁量が増えた結果、社員はモチベーションをアップさせます。私はこのような形で社員の個性が生かされていくことが、
組織力アップの実現につながると思います。
>>さてプロ社員を育てるというときに、成果主義の運用がひとつのポイントになると思いますが、何か具体的なケースを紹介いただけますか。
最近、成果主義を見直す会社が増えているといいます。運用自体に迷いが生じているケースも多いようです。成果主義の運用の失敗は、
制度自体の設計が悪いとは必ずしも私は考えていません。それよりも、成果主義の導入の理由を、
経営者が必ずしも正しくとらえていないケースがあるように思います。業績のいい社員を厚遇し、業績の悪い社員にはそれなりに、
という二極化を奨励する制度であるという誤解があるということです。
>>それは、社員が必ずしもお金などの経済的な要因でモチベーションアップをしているわけではないということですか。
Attraction & Retain Survey (A&R Survey)をすると、非経済的な要因、
たとえば仕事や人間関係が大切であるという数字が目立つようになってきました。ある外国人社長が、
残業などが激増して悪化している職場環境を考えて、全社員に一律、特別ボーナスとして50万円を支給することを決めました。
これが社員には大きな不満の源となったのです。がんばっている人と層でない人、業績を出している人とそうでない人など、
社員は他人との比較を始めたのです。その結果、一律同額のボーナスを支給するとは何事か、という不満につながりました。日本人社員は、
こうした処置に対して特にセンシティブであるといえるでしょう。
>>この場合、どのようにしたらよかったのでしょうか。
そうですね。お金を一律で同額だすという発想ではなく、
社員に対するRecognitionの与え方に工夫をする必要があったのではないでしょうか。会社に貢献している社員に対して、
具体的にどう役立っているのか、
そしてそうした貢献がその後も継続できるような環境や役割を本人に与えることを約束することが効果あると思います。わかりやすい例で言えば、
研究開発に携わるような社員に対しては、お金を与えるよりも、その研究開発を続けられる環境を約束するほうが効果があるでしょう。
研究開発をするにあたって、アングラ研究も認めるというのも、面白いかもしれません。多くの場合、偉大な研究開発は、
アングラ研究の成果であることが多いことを、多くの研究開発に携わるものは知っていますから。
>>プロ社員を育てることには確かにいろいろな工夫が必要なようですね。これまでのような大量の新卒採用が減り、
ミッドキャリアの採用がますます増えていくことになりますか。
その通りです。一方ユニークなケースとしては、一部の日本企業の中には、
とびきり優秀な新卒社員を年収600万円で迎えるという試みを始めています。学生時代からビジネスインターンなどに積極的に参加し、
頭角をあらわしているような、デキる新卒社員が組織化される動きも一部にあります。そうした若手はインターンなどの機会を通じて、
自分のスキルを磨き、プロ社員として「個」の論理を尊重しながら会社と付き合っていく方法を身につけています。80年代には、
MBAなどに象徴された経済合理性優先モデルの理解が注目されましたが、最近のトレンドはインターパーソナルスキルを磨くなど、「個」
としてのスキルアップなどに注目が移っているようにも思います。
>>どうもありがとうございました。
