MBA活用編:2004年01月28日(水)MBA取得をきっかけにプロ社員を目指せ
社員のプロ意識を高めることが、経営者には今、早急に求められている。その方法として、
2つのFAが大切であると提案をする人事コンサルタントに私は出会った。
一つ目はフリー・アドレス(Free Address)。二つ目はフリー・エージェント(Free Agent)という考え方である。
フリー・アドレスとは、社員はどこで仕事をしてもいいというコンセプトである。つまり、社員は必ずしも会社に来なくてもいいということだ。
あるドイツの会社では、数年前から社長を含めた全社員の座席をなくした例がある。職種、タイトルなどに関係なく、
社員は空いている席に自由に座り、必要に応じて移動をしながら仕事をするのだ。この場合、
オフィスには全社員分のデスクはないという状況になっている。自宅に勤務し、たまに出社する社員も増えているからだ。
「社員がばらばらに仕事をするようになれば、かえって組織としての求心力を失うという恐れはないのか」
私はその人事コンサルタントにたずねてみた。すると次のような答えが返ってきたのだ。
「私たちがこの制度を導入しようと企業に提案したとき、確かにそのような反対意見がありました。
それまでも部署間のコミュニケーションに問題があることが指摘されていましたから、
それが決定的に悪化するのではないかという心配の声も無理はありません。しかし私には、ある確信がありました。
コミュニケーションは必ず以前より良くなると信じていたのです。」
実際、フリー・アドレスが採用されてから、社員間のコミュニケーションは改善されていったという。というのも、しっかりと情報を伝達し、
相手にきっちりとフォローアップをしないと、物事が前に進まないと言うことに、社員一人一人が、気がつき始めたからである。
その代わり無駄なミーティングやレポートが激減していった。それどころか、ミーティングの出席率がよくなったのである。つまり、
みな主体的に行動するようになったのだ。これは社員のプロフェショナル意識を高めたよい事例である。
もうひとつのFA、フリー・エージェントのコンセプトを紹介しよう。これは自分のやりたい仕事に社員が応募する制度である。プロ野球などで、
一定の条件を満たした野球選手が、自分が好む他球団と自由に条件交渉できる権利としても認知度が高い。
「フリー・エージェント制度を認めることは、社員が自らのエンプロイアビリティを確認するよい機会にもなり、
プロ意識を高めるきっかけとなる」と、人事コンサルタントは言う。外資系企業ならば、採用しやすい制度のひとつである。一方、
失敗しやすい制度としても知られている制度でもある。
うまくいかない原因だが、現場の長が、P/L(プロフィット&ロス)に責任を持っている場合など特に失敗しているという。
個人のニーズや論理を受け入れず、目先の会社の事情を優先して本人の異動の希望を握りつぶすなど、
本来の制度の趣旨を曲げてしまうことがあるからだ。この制度を定着させるためには、
時間とコストをかけて人事が主体性を発揮して現場を巻き込んでいくフォローアップが必要となる。
具体的にはどのようなフォローアップを現場に対してやっていかなければならないのだろうか。「現場の長を集めて、フリー・
エージェント制度の趣旨を理解してもらう機会をしっかりと作ることが大切」と、人事コンサルタントは強調する。
日常業務の邪魔が入らない場所、つまりオフサイトの環境で、外部のファシリテーターの協力を得て、
こうした説明会を開催することが大切であるのだ。
さてプロ社員を育てることは、組織力のアップにつながるはずだが、フリー・エージェントという発想であれば、
社員との契約条件にもいろいろな工夫が生まれてくるはずである。このあたりの事例を人事コンサルタントに聞いてみた。
「面白い事例があります。私が担当した企業では、社長以下すべての社員の基本給を同じ金額にしました。
タイトルなどによって役割給で差をつけることはありますが、基本給を同じにすることで、より社員との契約意識を高めることに成功しています。
また業績給も同時に採用しています。
これにより手をあげて仕事をやりたいという社員の発掘とそれにこたえる報酬を与えることが可能になりました。自己裁量が増えた結果、
社員はモチベーションをアップさせています。私はこのような形で社員の個性が生かされていくことが、
組織力アップの実現につながると思います。」
私はもうひとつのポイントがあると考えている。つまり「プロ社員を育てる」というときに、「成果主義の運用」が重要ではないかと思うのだ。
最近、成果主義を見直す会社は増えている。運用自体に迷いが生じているケースも多いようだ。どちらかというと成果主義の運用の失敗は、
制度自体の設計が悪いというよりも、成果主義の導入の理由を、経営者が必ずしも正しくとらえていないケースが多いようである。
「業績のいい社員を厚遇し、悪い社員にはそれなりに、という二極化を奨励する制度である、という誤解がある」と、
前述の人事コンサルタントも指摘している。
つまり、社員は必ずしもお金などの経済的な要因ばかりで、モチベーションアップをしているわけではないのだ。非経済的な要因、
たとえば仕事や人間関係が大切であると考えていることにも注目する必要がある。人事コンサルタントは、次のような事例を紹介してくれた。
「ある外国人社長が、残業などが激増して悪化している職場環境を考えて、全社員に一律、
特別ボーナスとして50万円を支給することを決めました。これが社員には大きな不満の源となったのです。がんばっている人とそうでない人、
業績を出している人とそうでない人など、社員は他人との比較を始めたのです。その結果、一律同額のボーナスを支給するとは何事か、
という不満につながりました。日本人社員は、こうした処置に対して特にセンシティブであるといえるでしょう。」
ありがちな話である。日本のビジネス社会らしいといえばそれまでだが、お金を一律で同額だすという発想は間違っていた。
社員の努力を適切に認知する工夫をすれば、このような事態を避けることができたのではないだろうか。
この点に関する人事コンサルタントのアドバイスは次のようなものだ。
「会社に貢献している社員に対して、具体的にどう役立っているのか、そしてそうした貢献が、その後も継続できるような環境や役割を、
本人に与えることを約束することが、効果あると思います。」
もうひとつ、ユニークなケースを紹介する。一部の日本企業の中には、
とびきり優秀な新卒社員を年収600万円で迎えるという試みを始めている会社がある。学生時代からビジネスインターンなどに積極的に参加し、
頭角をあらわしているような、デキる新卒社員が組織化される動きも一部にあるという。そうした若手は、インターンなどの機会を通じて、
自分のスキルを磨き、プロ社員として「個」の論理を尊重しながら会社と付き合っていく方法を身につけているのだ。
これも会社と社員個人の自立した関係が生まれるきっかけのひとつである。
MBAなどに象徴された経済合理性優先モデルの理解が注目されたこともある。しかし最近のトレンドは、インターパーソナルスキルを磨くなど、
「個」としてのスキルアップなどに注目が移っている。これからはますます、「プロ社員」を目指す流れが高まっていくに違いない。
MBA取得を機に、プロ社員を目指すのも悪くないのではないだろうか。
